極北の民「エスキモー」
僕は以前から「エスキモー」の呼称を使っています。世間には「エスキモーは差別語だからよくない。イヌイットに言い換えるべき」という主張があるが、あえてこれには従いません。理由は以下で説明します。
◆先史アラスカの民族移動
かつてベーリング海峡は陸化して地峡「ベリンジア」となっていました。また北米北部は巨大氷床に占拠されていました。この時期に、まだ温暖であったシベリアから、古モンゴロイドがアラスカ南西部へ渡りました。
やがてアレレード暖期(1.35万年前~)に入ると、巨大氷床の間に「無氷回廊」が通じたので、ここを通って一部が南下してゆきます。これが【インディアン】の起源という。(古インディアンとナデネ・インディアン)
ところが1万年前頃に、「ベリンジア」は水没して海峡に変わりました。これから北極海の冷水が北太平洋へ流入して、この方面で気温急落が起こりました。この寒冷期にも何とかアラスカで生き抜いた人々を、【極北人】と呼びましょう。
やがてBC6000頃から世界的に気温が上がって、BC3500まで続きます(長い夏)。その後は気候振動が激しくなる(ビオラ振動)。極北人はこれらの間に放散しながら、さまざまに発展しました。
彼らは主に陸獣(ジャコウ牛・カリブー)狩りで暮らしていたようです。犬を飼わなかったことも特徴です。
BC3000頃には、彼らの一部がアリューシャン列島へ分岐しました。これが同地の先住民【アレウト】になりました。
◆極北人の多様な発展
五大湖周辺にはBC1600~の採銅遺跡がたくさんあり、おそらく極北人が銅を採って「威信財」にしていたのだと思われます。だがこれらの遺跡はじき突然に断絶している。これはBC1500頃からの気温急落(ビオラ③)で壊滅したものと思われます。
BC1000頃にまたも気温の急落があり(ビオラ④)、極北人はこれを乗り切るため、氷上スパイク・回転銛・イグルー(氷の家)などを発明しました。これから「ノートン文化」「ドーセット文化」など多様な発展が現れます。土器などはシベリアからの影響があるそうです。彼らはツンドラ地帯を住み占め、森林地帯以南に住んだインディアンとは明瞭に区別されます。
さらに紀元前後には、アラスカ南西部で、シベリアのつよい影響を受けた「チューレ文化」も発生しました。先行文化と違うのは、船を操って海獣猟をよくしたこと、それから犬を飼ってたことです。これが現【エスキモー】の祖です。
◆チューレ文化人=【エスキモー】の大征服
くだってAD1000頃には、北欧のノルマン人がニューファンドランド島へ渡って来て入植を図りました(現ランス・オ・メドー)。だがドーセット人はこれと戦い、追い返すのに成功しました。
ところがその同じ頃から、チューレ人(現エスキモー)の急激な勢力拡大が始まります。彼らはアラスカから東進して、1400年頃までにカナダの古極北人(ドーセット人やノートン人)を絶滅させてしまいました。これは「中世小氷期」とリンクした現象です。よりすぐれた寒冷適応能力をもつ新集団が、古極北人を圧倒したということです。
さらに彼らはグリーンランドへも侵入して、15Cのうちに古極北人・ノルマン入植者をともに絶滅させました。
しかし16Cに入ると、西欧人の侵略が始まって、その持ち込んだ伝染病や酒などで、エスキモーは衰退してしまいました…。
◆【エスキモー】の構成
いま彼らの人口は9万人近くで、その分布は以下のようです。(人口はWikiから拾いました)
【Aユッピック】-アラスカ西部の「本家」集団。「ユイット」などの異称もあります。3万2千人ほど。
[aシベリア・エスキモー]-Aからシベリア沿海へ移住した分派です。今は少数で1200人ほど。
【Bイヌイット】-カナダ北部~グリーンランドへひろく分布した集団です。「イヌック」などの異称もあります。カナダで1万2千人ほど。
[bカラーリット]-Bのうちグリーンランド集団の別名です。4万人ほどで最大集団。
【Aユッピック】も【Bイヌイット】も文化的には同質で、よそから見るとほとんど同じように見えます。しかし両者の言葉は通じず、彼ら自身は互いを「違う」と意識している。
本人たちが「違う」と意識してるのだから、【ユッピック】もまとめて【イヌイット】と呼ぶのは不適当だし、失礼です。部分集合の名をもって、上位集合の名にすることはできません。
そこで人類学者は、彼らをまとめて呼ぶときに【ユッピック=イヌイット集団】なんて言ったりします。しかしこれは長すぎるし、一般人には意味が通じない。
そもそも【エスキモー】は、「生肉喰い」を指す蔑称といわれるが、これもじつは俗説らしい。くわえて彼らが生肉を食べるのは事実なのだし、それは極北でビタミンを摂取するためのすぐれた智恵です。
彼ら自身のうちにも「我らはエスキモーだ」という自己主張が強いそうで、だったら【エスキモー】でいいじゃないか-と僕は思います。
[関連→「★インディアンか? ネイティヴ・アメリカンか?」]
[参考文献] マックス・デュモン『ツンドラの古代人』
アーネスト・S.バーチ『エスキモーの民族誌』
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