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2008年11月 8日 (土)

無限妄想Ⅲ-「二つの無限」を比較する

◆「果てなし可算無限」<「底なし実在無限」
 螺旋の中で僕とアンが話していると、そこへフィニも現れた。
「こっちの話が長いわね。私も混ぜてよ」
 ちょうどいいと思って、僕は二人に訊いてみた。
「こっちの実在無限って、フィニが前に見せてくれた可算無限より大きいような気がするけど…。あれ? でも無限に大小があるっておかしいかな?」
 するとアンもフィニも笑い出した。「おかしくないわ」 フィニが言った。
「まさしくあなたの言ったよう、だんぜん実在無限の方が大きいわよ。だって拡大することを考えてみればいいわ。私の可算無限だと、数直線を拡大すれば、穴だらけのスカスカになっちゃうでしょ」
 アンが言った。「いっぽう実在無限だと、どれだけ引き伸ばしてもどんな穴もできないのよ。言い換えれば、どれだけ拡大また縮小しても、濃度が同じっていうことね。いまここではたまたま十進法を使ってるから、一階層ごとに精度が10倍するでしょ。じゃあここの数直線からその一階層ぶんだけを取り出したら-」
 アンが手を打った。すると数直線の全体にかかっていた霧が取れて、ナンバー目盛りだけが残った。そのずうっと端の方だけ、霧が残ってぼやけてる。
「これは…フィニのところで見た可算無限だ!」
「そのとおり!」 フィニが言った。
「つまり私の可算無限は、ここ実在無限の一階層ぶんにしかならないわけ。可算の〈果てなし〉ナンバーたちは、足してもかけても一階層ぶんを超えられない。だけどこっちの全実数は、上にも下にも〈底なし〉の階層を持ってるのよ」
「それじゃ、可算無限を使ってここの実在無限をつくることはできないんだね?」
「それは…ねえ」
 フィニとアンは顔を見合わせ、やや当惑した色を浮かべた。そのとき僕は、また突然に閃いた。
「あのさ、ここの実在無限から[あるn桁]の階層だけを取り出せば、それは可算無限なわけだろ。だったら可算無限の数直線を、可算無限の階層ぶんだけ集めたなら、実在無限になるんじゃないか? つまり〈可算無限の可算無限乗=実在無限〉って成り立たないかな?」
「うーん…もっともらしいわねえ」
 アンが笑った。
「でも残念ね。その問題は、実は決定不可能だとわかってるの。つまり今ある規則(ZF公理系)では、それは論証できないことを、ゲーデルとコーエンが証明してしまったのよ。その問題は〈連続体仮説〉と呼ばれてるわ」

◆「数えられる可算無限」<「数えようのない実在無限」
 再びフィニが笑って言った。
「私がカバーできる数を言っておくわ。まず自然数。これはナンバー=自然数だから、問題ないわね。次に整数。ナンバーを0のところで折り返せばつくれるもんね」
「うん、わかるよ」
「それから有理数-つまり分数。これだって、分母と分子に整数を割り当ててつくれるもの。あとそれから…」
「それからって、まだあるの? 有理数の次は無理数じゃないか?」
「その無理数にも二種類あるのよ。例えば√2は、[Xの2乗=2]って整数方程式の解として書けるじゃない。つまり整数による有限回の操作でつくれるし、それだから数えられる。そういうのを代数的無理数って呼んでて、そこまで可算無限なの」
「じゃもういっぽうの、数えられない無理数って?」
超越数よ」 アンが言った。
「整数比にもならないし、整数方程式の解にも書けない数。有名なのはπとかeよね。整数による有限回の操作ではつくれないから、とうぜん数えることもできない。そして数のほとんどは、実のところ、そういう超越数なのよ」
「へえ? それじゃあ超越数は、実在無限だけあるってことかい?」
「まさしくそうよ。言い換えると、①有理数の集合は四則(+-×÷)で閉じてるし、それに②代数的無理数を加えた集合も四則とベキ・乗で閉じてるわけ。でも③超越数の集合は、それよりはるかに大きくて、閉じたものとして扱えないのよ」
「ふうん……。じゃあ”可算無限<実在無限”ってのはわかったけど、実在無限より大きい無限ってあるのかな?」
「それはこの世界の外側っていうことね…」
 アンは螺旋の世界を見回し、かるく肩をすくめてみせた。
「それについては”より大きな外側はあるだろう”としか言えない…と思うのよね。つまりここの規則からでは、それについて何も言えない。だって規則の外側だもの」
「フィニが前にやったように、もひとつ上階から見下ろすってのは?」
「ダメよ。ここじゃ、上ってないもの。ここじゃ昇っても降っても一緒だって、もうわかったでしょ?」
「でも、ここの壁を壊して、外側に出るって手があるんじゃないか?」
 僕は壁を蹴飛ばした。するととたんに壁が崩れて、僕は危うく落ちかけた。アンとフィニが慌てて両側からつかまえてくれた。壁の向こうは真っ暗闇だ。
「バカね! この外側を考えることは、〈一般連続体仮説〉って泥沼の難題よ! ゲーデルはその問題を考えてるうち精神が崩壊しちゃった…ってくらいなんだから。もし素人が落っこちたなら、とてもタダじゃすまないわ!」

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