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2008年11月 4日 (火)

無限妄想Ⅱ-「底なし」の実在無限

 また妄想の続きです…。

◆底なし螺旋の無限界
 少女フィニに突き落とされて、落下するうち目がまわり、気づくと奇妙な場所にいた…。
 そこはすり鉢の内側みたいで、広がった上の階からすぼまった下の階へ、くるくると螺旋階段が続いている。どうも対数螺旋のようだ。
 その中ほどから見下ろすと、すぐ下の空間に一本の数直線が浮かんでいた。0、1、2、3…とふつうの数たちが、目盛りの上に浮かび出ている。なぜだか数直線全体が、うっすら玉虫色の霧をまとっていた。
「こりゃ何だ?」と僕が呟くと、すぐ後ろから声がした。
実在無限の世界へようこそ。私はアン、ここの案内人よ」
 振り向くと、すらりと背の高い髪長の美人がいた。僕は言った。
「ここが実在無限の世界? フィニは何だか恐ろしいところだって言ってたけど…」
「フィニは私の妹よ」 アンはにこにこして言った。
「あっちの可算無限って、要は『ナンバーの果てがない』でしょ。だけどここはそれとは違う。『全実数の密度が底なし』なの」
「全実数の密度が底なし…?」
 僕は数直線に目をこらした。よくよく見ると霧がかったナンバー目盛りの間にも、小さな数字たちがウジャウジャ隠れているようだ。
「下の階へ降りてみましょう」 アンは言った。「ただし一つ注意があるわ。この螺旋はどこまで降りても、底へ降り尽くすことはできないのよ」
「本当かい? 底はずいぶん狭いみたいに見えるけど…」
「来ればわかるわ」
 アンは優雅に歩き出し、それで僕も彼女を追った。ぐるりと螺旋を一回りして、さて数直線を覗き込むと、目盛りが0.1、0.2、0.3…と細かく振り替わっている。またその目盛りの間にも、もっとウジャウジャいるようだ。
「好きな数の区間を、あなたが選んで。そこへ降りて行けるから」
 アンが言うので、僕は0.2~0.3の区間を選んだ。それでまたアンと僕が一回り降りてゆくと、そこでは0.21、0.22、0.23…という具合で、目盛りがさらに細かくなってる。
「おかしいな…」 僕は言った。「もう二階ぶん降りてきたのに、ぜんぜん狭くなっていないぞ」
「それはね、ここを降りてゆくだけ、私たちも縮んでゆくからよ」
「僕たちが縮んでいる!?」
「気にしないで。登ればもとに戻れるし、ここは非現実だから」
「でもそれじゃ…」 はっと気がついて僕は言った。
「なるほど! だから底まで降り尽くすことはできないのか!」
 アンは笑って「エレベーターを使いましょう」と言った。すると金の円盤が、ヒューンと宙を飛んできた。僕たちが円盤に乗ると、それはいきおい急降下を開始した。
「わっ、わっ! これじゃ墜落しちまう!」
「大丈夫よ。ここは底なしなんだもの。それより数直線を見て」
 円盤の縁につかまって覗き込むと、どういう仕掛けになっているのか、数直線はずっと同じ太さで見えていた。ちょうど虹とか逃げ水のよう、いくら近づいても近づけない。ただその目盛りだけ、どこまでも無限に細かくなってゆく
「馬鹿な! 物理法則はどうなってるんだ!?」
「そんなものないわ」 アンはあっさり言ってのけた。
「妹も言ったでしょう。ここは物理的現実じゃなく、抽象思考の世界だって。無限分割って公理から考えれば、こういうイメージができるわけよ」
 いつの間にか、「一億分の一」くらいの精度でエレヴェーターは停まっていた。数直線の数たちはすごく小ちゃくなっているけど、それ以外の構造は、上にいたときと何一つ変わってない。
「ねえアン…。これってひょっとして、何階上でも何階下でも、実は同じなんだろう?」
「あはは。気がついちゃったみたいね」
「一階下へ降りても、一階上へ登っても、ループになって戻ってるんだ。無限に続くというよりは、クルリと元へ戻ってしまう。変化が起こるのは精度だけだ」
「その通り。それがここのカラクリなのよ」
Infinity02

◆接線・微分・フラクタル
「今度は数直線じゃないものも、見てみましょう」
 アンが手を打った。すると数直線は消え、かわりに放物線(2次曲線)が出現した。
「また好きな場所を選んでみて。そこへ降りてゆくから」
 そこで僕が適当に指し示すと、また円盤は急降下した。ギューンと降りてゆくうちに、だんだん放物線のカーブは伸びて、直線にしか見えなくなった。
「なるほど…これは1階微分して接線を得たのと同じことだね」
 アンは「その通りよ」とニコニコ笑った。そのとき僕は気がついた。
「ねえアン…。今やったことって、3次曲線でも何次曲線でも、同じことができるだろう? つまりどんなn次曲線に対しても接線が引けるわけだ」
「ええ。連続していて特異点がない曲線なら、そうなるわね」
「特異点?」
「たとえば線がとんがって、角みたいになってる点よ。角はいくら拡大しても角のままで、接線は得られないわ」
「ああ、そりゃそうか」
 僕は納得した。するとアンがまた手を打った。今度は下に現れたのは、何だかグチャグチャした不規則な線だった。まるで海岸線みたいな感じ。
「あれには接線が引けると思う?」
「うーん…拡大すればどうなるだろう?」
 また円盤が急降下した。ところが今度の不規則線は、どこまで拡大してもやっぱりグチャグチャ。どうも直線にはなりそうもない。
「これが、いわゆるフラクタル。見てのとおり微分不能よ。それだけじゃなく、これって長さも測れないの。だって精度を上げるだけ、そのぶんデコボコが増えてゆくから。現実の海岸線だってこれと同じで、地図の縮尺しだいで長さが変わるのよ」
「ふうん…」

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