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11/16/2004

女の名前と魔術の名前-名前学⑥

 またもや続き記事なので、まず前回分をまとめときます。
 前回「ローマ人の名前」は、「①家督名+②地所名+③血族名」の構成が基本である-と書きました。だけどこれは男の話。「女の名前はどうなんだ?」ってところから、再開です。

 実はこれがすごく単純。「②名の所有格」をつくるだけです。たとえば「Qt.カエキリウス・メテルス」家の女はみんな「カエキリア」。同様に「Pv.コルネリウス・スキピオ」家の女は「コルネリア」です。ほかも「ユリウス→ユリア」「ポルキウス→ポルキア」「セルウィリウス→セルウィリア」「クラウディウス→クラウディア」…って調子。とても簡単なのでした。
 しかし、ちょっと考えればわかることだが、この結果、またもや恐ろしいコトになります。
 だって家族の姉妹や姪が、みんな同じ名前なんですよ! だいたいローマは貴族社会で、VIP同士はみんな婚姻でつながってる。たとえばカエサルの愛人セルウィリアは、政敵カトーの義姉です。カトーの娘ポルキアは、暗殺者ブルートゥスの奥さんです。そしてブルートゥスの母がセルウィリアです。ってわけでブルートゥスはカエサルの息子になる。(→前々回記事にちょっと絵があります)
 こんな関係がもっともっと複雑に広がってるので、調べてるとわけわからん! 
 しかも一族女性の区別が、名前ではつかないうえ、離婚・再婚がしょっちゅうなので、史料を読んでると「冗談じゃねえよ!」ってわめきたくなっちゃいます。パニックに陥ること請け合いです。

 しかし、ここで不審が一つ。姉妹がみんな同名ならば、いったい彼女らは「家庭内」では、何と呼ばれていたのでしょうか?
 実はローマの女たちには、「公的」には記録されない別の名もあったようです。つまり「あだ名」と言うべきか? まあ呼び分けができなくっちゃ不便だものね。だから「私的」なレベルでは、やっぱりそれぞれ何か名があったらしい。
 しかしどうも、そうした「私名」は、外には秘密であったようです。彼女の娘時代には、その「私名」は父親によって管理される。そして嫁入りするときに、はじめて相手の夫にその名が明かされる(管理権が渡される)…という習俗があったのだとか。なんとこれは興味深い! またこのことは、「女の名前」が実は「魔術名」と同じであることを意味してます。

 さて「魔術名」とは何であるか? これはヨーロッパなどに古くあった習俗で、「マジック・ネーム」とか「シークレット・ネーム」とか呼ばれます。つまり魔法の秘密の名前ってことで、まんまですね。
 英国ファンタジーの古典『光の六つのしるし』(スーザン・クーパー)でも、この「魔術名」が出てきます。それは人のホントの名前で、教会でつけられて公表される「洗礼名」とは別のものです。これは彼の「魔力源」で、呪文などに使われる。でもそれだから、名前を知られると呪いに使われ、敵の魔法でやられちゃうことにもなります。だから絶対秘密であって、ヨソの人に知られちゃいけない。親や師匠は彼の名を知っているが、それは彼が親や師匠に服属している(支配されている)意味でもあります。
 つまり名前を知られることは、魔術のレベルで支配されることと同じっていうわけです。これは「魔法の一般原則」の一つです。たしか西洋でも日本でも、悪魔=鬼に難題を突きつけられ、喰われそうになっちゃうが、その悪魔=鬼の「名前」を言い当てて、退散させちゃうってお話がありますよね。「名前」の魔力たるやかくの如し。
 こうして以上を見てみると、「女の名前」と「魔術名」は、まったく同じだということがわかるでしょう。これはどうしたわけでしょう?

 ローマ人の名前に戻れば、「女の名前」は、①名があらわす「家督」とも③名があらわす「血統」とも関係なく、ただ②名の「生地」とのみ関連していることがわかります。「彼女はどこで生まれたか?」だけが問題で、家の権力とも血筋のシバリとも無縁であるというわけです。
 じっさいローマでは(多くの非近代社会でも)、女は公職権にも家権にも関わらない。嫁入りで、家から家へとポジションを変えてしまい、その「正体」であるべき「私名」は、公の登録にかからないのです。
 なんとも「女の名前」とは、あるいは「女」というもの自体、不思議な性質ではありませんか。このことは文化人類学の大きなテーマでもありました。なぜ「非近代社会」における女の位置づけは、今の我々の視点からは、これほど奇妙に見えるのか?

 …ってところで、また続きます。次回はいよいよ「魔女論」です(たぶん)。

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コメント

はじめまして。
私のブログで、映画『ゲド戦記』に関する記事を書きまして、その中でこちらの記事をご紹介させていただきました。
よかったら覗いてみてください。
どうぞよろしくお願いします。
TBもさせていただきました。

投稿: umikarahajimaru | 08/31/2006 04:32 午後

umikarahalimaruさん、初めまして。
ご丁寧にありがとうございます。
「魔術名」はファンタジー世界ではふつーに「常識」だと思っていたので、『ゲド』なんかあんなに説明もしているのに、「わからない」という声のある方が不思議でした。
ウチでも劇評を書いた『ククーシュカ』http://yumiki.cocolog-nifty.com/station/2006/04/post_80a6.html
でもあの考えはでてきます。古代や未開世界では普遍的な概念です。
あと…僕は男性です。

投稿: 弓木 | 09/01/2006 02:33 午前

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