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11/01/2006

『ストロベリーショートケイクス』-溶け落ちそうでも生きているもの

 原作-魚喃キリコ/監督-矢崎仁司/脚本-狗飼恭子
 出演は、里子-池脇千鶴/秋代-中村優子/ちひろ-中越典子/塔子-岩瀬塔子

 ヘンな前振りから始めますが。
 水中のプリミティヴな生物であるミジンコやクラゲなんかは、「生きている」細胞だけでできています。透き通ってみずみずしい。死ぬときれいに溶けちゃって、後に何にも残りません。
 いっぽう人はそうではなくて、その体表は「死んだ」細胞-表皮や角質で覆われています。「生きている」細胞を表に出すことはできないのです。外気にさらせば、痛んで傷ついて、死んでしまう。
 たぶん…これは「心」でも同じことです。人が表に出しているペルソナは、乾いてパサパサしたものです。その内面には、繊細な、痛みにみちた心があるけど、それは〈傷口〉でしか表には現れない。けっきょく「生きている」というのは、傷つきやすくて痛むことです。
 この『ストロベリーショートケイクス』は、4人のヒロインのそんな「生きている」痛みを、血の滲むような生理感ですくい取った秀作でした。

 作中4人のヒロインは、2組ずつに分かれています。デリヘル嬢として稼ぐ秋代と、その店の電話番をしてる里子。イラストレーターの塔子と、同居しているOLのちひろです。
 4人はちょうど座標軸のよう展開して、「ギリギリ-くすぶり」また「引き裂かれ-独りぼっち」の位相をつくっている。それにしても重要なのは、4人がみなそれぞれの「痛み」にみちていることです。この現実に生きるというのは、これほど困難なことなのか。
Strawberryshortcakes
 もっとも振れ幅が大きいキャラは秋代です。自分の体を売るハードな仕事をして稼ぎながら、横恋慕の男友達に会う時には、それを隠して全然「別の顔」をしている。彼女が二つのペルソナで必死に隠しているその痛みは、ほとんど死にさえ近いものです。殺風景なアパートで、彼女は棺桶で寝起きしていて(!)、〈夢〉は「高層マンションを買って飛び降り自殺」だと里子に言います。
 秋代がもうボロボロになった「秋の蝶」なら、里子はいまだ夢見る(夢しかない)「早春のツボミ」です。けれど彼女に吹く風もやさしくない。何かになりたくて、何かを手に入れたくて、だけどまだ何にもない、何にもなれない、そんなモヤモヤ日常の繰り返しです。
 一応ちゃんとした「ふつうのOL」をやってるのがちひろ。お茶を汲み、コピーを取り、同僚OLから陰口を叩かれ、男に尽くそうとしても棄てられる。必死に「ふつう」の中でもがいている。身近にいそう…という点では一番でしょう。
Touko その才能でたしかに「自立」している-と見えるのが塔子。だが冷静に見える彼女のペルソナ下でも、やりきれなさはマグマのように溜まっています。美しい絵の余白にそっと「呪い」を書きつけ、誰にも知られず過食と嘔吐をくり返す。とりわけ、苦しんで苦しんで苦しんで描き上げた「神様」のイラストを、あっさり編集者に紛失され、「カネ払うから描き直せ」と言われた上に、イヤミまで投げつけられるエピソードは観ていてもこたえました。人がいのちを削るようにして創ったものを…。(書いていて涙が出そうだ)
 4人の誰にも、特に女性には、つよく共感できるものがあるでしょうね。僕には塔子が最も鋭く刺さりました。
(余談だが、塔子を素晴らしく演じた女優が岩瀬塔子さんだというのは、何か関係あるんだろうか?)

 若い女性たちの痛みを描いたという点では、これを観ていてチョン・ジェウン監督の傑作『仔猫をお願い』を想起する部分もありました。ただ『仔猫-』が不安で残酷でありながらもひとすじの明るさを持っていたのに対して、この『ストロベリー-』はよりずっと切なく透き通った細胞状の心理空間を描いている。どちらが優か劣かということでなく、作品位相の違いでしょう。
 ともあれ、本作もまた得がたく素晴らしい作品でした。ラストまで4人の誰も死ななくてほんとうによかった…と思いました。はじめて4人が出会ったであろうあの場面後に、どんな会話があったのか、想像をかき立てられます。みんなが同じ時空に生きている-ということ自体が、あるいはひとつの「奇蹟」なのかも。

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コメント

私も昨夜この映画を観て、
登場人物の4人の誰も死ななくて良かった、と
同じ感想を持ちました。

何故かあまり前面には出さないようにしているようですが、
塔子を演じている「岩瀬塔子」さんを演じたのは、
原作者である魚喃キリコさん、ご本人です。

投稿: 通りすがりの者です | 11/10/2006 03:50 午後

えーっ!? そうだったんですか!
「通りすがり」さん、貴重な情報をありがとうございます。びっくりしました。

キリコさんて、あんな美人でオーラのある人だったんですねえ。演技も胸を打つものだったし。池脇千鶴や上野樹里やキム・ジスらと比べてもぜんぜん遜色ないと思います。たぶん僕の今年の「女優賞」は彼女です。

投稿: 弓木 | 11/10/2006 08:46 午後

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