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02/12/2007

『シベリア民話集』-口承文芸の驚くべき地平

 斎藤君子氏編・訳による『シベリア民話集』(岩波文庫)の紹介です。このとこ僕はずっとシベリア文化にハマってるけど、それはこの一冊から始まったことでした。

◆シベリア民族の重要性
 シベリア少数民族は、つい近い時代まで、「国家の文明」に染められず暮らしてきました。これは見方を変えるなら、数千年~1万年以上前の「先史文化」が、この地に冷凍保存されてきた-ということです。もちろん彼らだってそれなりの変遷を遂げてきたが、それにしても、旧い文化の痕跡がよく遺っていることは疑えない。
 ではこの『シベリア民話集』を見てみましょう。これは6語族にまたがる17民族から41話が集められてる。具体的には以下のようです。

【エスカリュート語族】アジア・エスキモー1族から3話。
【パレオ=アジア語族】チュクチャ、コリャークなど5族から12話。
【ツングース語族】エヴェンキ、エヴェンなど4族から9話。
【モンゴル語族】ブリャート1族から4話。
【テュルク語族】トゥヴァ、ショルなど2族から4話。
【ウラル語族】ヌガナサン、ハンティなど3族から7話。
*独立語…ケト1族から2話。

 バランスがよく、読んで楽しい。シベリア文化の入門書に最適の一冊です。

◆シベリア民話の特徴
 では『民話』の目立った特徴を五つ挙げます。
①「人-獣」の対称性
 狩猟民族の思考においては、人間の世界/動物の世界は、等価値な対称性を持っています。人があっちへ行くことも、獣がこっちへ来ることもある。
 第1話〈不思議な手太鼓〉で、森の中で迷った少女は、やさしい熊女に救われます。ワタリガラス・狼・鯨・アザラシ・兎・蛙…など、多くの動物が人同様に活躍する。第23話〈ヌゲティルカ〉と第27話〈白鳥女房〉は、ともに白鳥女の羽衣を奪って嫁にする話です。
②モノに宿る霊
 生きた獣だけでなく、モノにも霊が宿ります。第6話〈トナカイ飼いのイィヌヴィエ〉では、ナイフが持ち主を裏切るが、スキーと杖と砥石が助ける。第18話〈じいちゃんと角のスプーン〉では、リスとスプーンが老人を救います。弟22話〈チョルチョミャーカ〉では、鳥が仇の魔物を討つのに、魚や木槌や串やドングリが加勢をする。みなで待ち伏せトラップをかけ、「猿蟹合戦」ふうにやっつけるのです。
③叙事詩の伝統
『民話』中でもエヴェンキ族の2話は別格に面白いです。第17話〈ウムスリケン〉はファンタジックな英雄譚。彼らには語り文芸の伝統があり、その「語り手」はシャ-マンにひとしい尊敬を受けたそうです。
④「単純」な民話の意味
 いっぽう『民話』中には、第30話〈勇敢な山羊〉、第40話〈こねずみとヘラジカ〉のよう、ただ主役動物が獲物を殺すだけってシンプルな話もある。何の意味があるのかと思いますが、たぶんこれらは狩りのとき語られたもの。つまり狩猟の成功と安全を祈った「呪話」なのです。まだ文芸が成り立つ前の、最も初期の「話」の姿を、ここに見ることができるでしょう。
⑤シベリア民話の普遍性
 前述のよう『民話』には、白鳥女房・猿蟹合戦など、日本民話の「元型」とも取れるものが存在します。第29話〈こぶとりじい〉もモロにそうです。
 また幾つもあるワタリガラス神話は、北東アジアから北米の先住民にまで分布を持ち、なお幾つかのモチーフは、アファナーシェフやグリムらとも共通する。まるで北半球の多くの民話が、シベリア起源なのか?…とさえ思えてきます。

 またまた長くなりました。安価な文庫本なので、興味のある方はぜひ買って読んでください。

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コメント

今、本を借りて読んでいます。物語はまだピンとこないのですが、各章扉の写真は素晴らしいです!私の場合、いつも物語は最初はピンとこないことが多くて、書評やあらすじがあると重宝したりします。でも、勘が働いて、この本は後々役立つと思いましたので、購入することにしました。近所の本屋さんには無かったので、ネットで購入することにしました。
 
食べ物の話が多くて、何だかとても美味しそうでした。杉浦茂の漫画も食事のシーンが美味しそうだったのを思い出しました。また、以前に読んだネイティブ・アメリカンの本の中で、お婆さんが家に来た人を腹ペコのまま帰したことはないと、話していたのを思い出したりしました。
 
今のところ、ネイティブ・アメリカン、クラストル、レヴィ=ストロース、アイヌ、沖縄、アボリジニ、そして、今回のシベリア先住民と環太平洋の輪を自分なりに考えています。日本では、折口信夫の古代、白川静の呪とかをポツリポツリと読んだりしています。また、ご教示いただけたら、幸いです。ありがとうございました。

投稿 A | 08/02/2007 11:21 午後

Aさん、こんにちは。
『シベリア民話集』の解説としては、やはり斉藤君子さんの著書である『シベリア民話への旅』が最適だと思います。もっとも同書は絶版なので、図書館とかで見つかるといいのですが…。

斉藤さんの著書・訳書は、すべて僕には面白いです。彼女が訳したプロップ『魔法昔話の起源』は、とっても分厚い本だけど、僕は読んで目からウロコが十枚くらい落ちました。「しまった-、柳田なんか読まずにこれを読んでりゃよかっんだ!」と愕然としましたね。この書のことは、いずれブログでも採り上げるつもりです。

また『シベリア民話集』収録の「水の母の息子」は、短くて意味がよくつかめないが、これに対する詳しい分析が、中沢新一『カイエ・ソバージュⅡ-熊から王へ』にのってます。この書ではまた〈環太平洋の神話学〉も話題になってますよ。
この全五巻「カイエ・ソバージュ」シリーズは、たぶん中沢氏の仕事のうちでも最良のものでしょう。

クラストルのことは、初めて知りました。探して読んでみたいと思います。ありがとうございました。

投稿 弓木 | 08/03/2007 08:25 午前

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