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12/02/2007

「オシクマ王」の悲劇-書紀解論(十五)

『記紀』では謀反人とされる「カゴサカ王・オシクマ王」
 その正体が、オオタラシヒコ大王(景行)の第二王子イオキイリヒコ・第三王子オシノワケであろうことは、すでにこれまで述べてきました。
 今回は、オシノワケに焦点をあててみます。

◆畿内の2王子、挙兵する
 前回見たよう、この動乱は、オオタラシヒコ大王の変死から起こった〈3極継承戦争〉だったと考えます。
 まず大王が変死したのち、北九州「遠征朝廷」の重臣団と、第一王子ワカタラシヒコが決裂して、ワカラタシヒコは出雲に割拠し「自立」する。
 ここで畿内にあったイオキイリヒコ&オシノワケも動き出します。『神功紀』に拠れば、二人は明石に「天皇陵」をつくるとして、兵船を動員したという。
 この「天皇」が、重臣団によって密殺されたオオタラシヒコ大王だと考えれば、二人の行動はわかりやすい。彼らは父王が殺された事実を公表し、それによって畿内を糾合、「非常指揮権」を発動したのです。

◆イオキイリヒコは「猪に喰われた」!?
 さて『神功紀』はこの後に、奇怪な記事を続けます。二人が菟飢野(とがの=大阪北区)で挙兵の神事をしてると、「赤猪」が飛び出してきて、「カゴサカ王を喰い殺した」というのです。もちろんありえないことだ。
 推察すれば、この実態は、三弟オシノワケが次兄イオキイリヒコを襲ったのではないだろうか? なにしろことは「王位継承」の争いです。三弟オシノワケからすれば、次兄も邪魔者に他ならない。
 イオキイリヒコは命からがら逃亡し(この点は後述)、オシノワケは畿内を独占掌握したと考えます。
 この後、前回述べたよう、彼はトヨ(神功)を迎え撃って粉砕しました。この時点でオシノワケは、ほとんど王位に手をかけたのです。

◆宇治川の「騙し討ち」
 オシノワケ軍はつづけて北上。日本海から上陸してきた武振熊(出雲勢)と武内宿禰(北九州勢)を、山城で迎えました。
 このとき武振熊は「神功が死んだからもう降参」と言っており[古事記]、また武内宿禰も「服従します、王位はあなたに」と言っている[神功紀]。
 圧勝におごっていたオシノワケは、うかうかとこの罠にはまりました。2将の降伏に舞い上がって、勝利の祝宴を張ったのです。
 しかし2将は、オシノワケを油断させ、とつぜん騙し討ちました。オシノワケはあえなく殺され、畿内勢も総崩れとなったのです。

◆出雲戦線-「弱者の密約」
 オシノワケがまんまと欺かれたのは、ほんらい2将が「敵」同士だったからです。敵対2将が「共謀の裏切り」を働くとは、彼には予想外だった。
 ここで出雲戦線に注目しましょう。トヨ主力軍が畿内を襲っていた頃、武内宿禰も別軍で出雲を攻めていました。戦力のほとんどは主軍に投じられたはずなので、別軍は小兵力であったでしょう。武内宿禰の任務は、「強攻」でなく、出雲の「牽制」にあったはずです。主軍が畿内を征服するまで、出雲の動きを封じたわけだ。
 対する出雲側の状況はどうだったか? たぶん出雲の兵力は〈3極〉で最小です。自ら天下獲りに打って出る力はない。となればワカタラシヒコは、本拠を堅守した上で、北九州vs畿内を天秤にかけたでしょう。いうならば日和見です。
 そこで出雲戦線では、両軍とも睨み合いに終始したと思われます。
 ところが、トヨの惨敗により、事態はにわかに急転しました。武内宿禰はもちろん、出雲側のワカタラシヒコも、オシノワケの圧勝には衝撃を受けたはずです。
 オシノワケは、すでに次兄イオキイリヒコを襲撃して、容赦ないところを見せています。強大な彼が天下を獲ったなら、長兄ワカタラシヒコも、「父王の殺害者」武内宿禰も、ついには無事ですむはずがない。
 つまりは、圧倒的に強大なオシノワケへの恐怖から、それまで敵対していた武内宿禰-ワカタラシヒコは、一転して「弱者の連合」を結んだと考えます。
 この連合の条件が、「出雲の自立安泰・王族待遇」であったことは、すでに〈★解論・十〉で述べたとおり。
 なお3神器のうち〈八坂瓊の勾玉〉も、このとき密約の担保として、出雲に預け置かれたかと考えます。だから以後、持統代まで、『書紀』の即位礼記録には「鏡・剣」の2神器だけしか登場しない。「国譲り」を伝える[一書第二]で、オオナムチが〈八坂瓊の太玉〉とともに隠れた-とされていること。また『出雲国風土記・意宇郡記』が〈玉珍〉安置を伝えていることも、この傍証となるでしょう。
 こうして、武振熊(たぶんワカラタシヒコの息子)と武内宿禰が共謀して、オシノワケを欺くことになったわけです。オシノワケは強大であったがゆえに潰された-。まさしく「出る杭は打たれる」の悲劇といえます。

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