『書紀』にはトヨが11人いる!-書紀解論(二十四)
『日本書紀』の分解作業も、とうとう24回目。よっぽど「もうテーマを変えようか」と思いましたが、何とかもう少し頑張って、キリのいいところまでやり終えます。
◆バラバラに分解されたトヨのピース
今回は、『書紀』におけるトヨの分身たちを整理します。列記すると、次のようです。
【M-神話】
①イチキシマヒメ。②ワカヒルメ。③万幡豊秋津姫(栲幡千々姫)。④豊吾田津姫。
【L-上古伝】
⑤神武+宇佐津姫+イツヒメ。⑥吾田媛。⑦サホヒメ。
⑧倭迹迹日百襲媛。
【R-改版史実】
⑨神功(オキナガタラシヒメ)。
全部で「11人いる!」のだが、⑤は三つ揃いでセットなので、ここでは9人として整理します。この一覧が表6です。クリック拡大で見てください。
9人の全員が、何らかの属性重複で結ばれていることがわかるでしょう。重複が多い者ほど、トヨ原像に近いのだと考えます。また③④は、直接「トヨ」の名を明示します。
便宜のために、これまで解説ずみのページを示しておきます。
① →★七【スサノオとアマテラスの誓い比べ】
③ →★八【アマノオシホミミの妃は何者か?】
⑤-⑥-⑨ →★十三【神功=神武=吾田媛の同一性】
④-⑦-⑨ →★二十三【応神の出自疑惑Ⅱ】
⑧ →★二十一【崩れゆく応神朝】
また表7は、トヨに影のように寄り添う武内宿禰の分身たちです。
◆「ワカヒルメ」とは何者か?
じつは上に挙げたうちには、僕が今まで見落としていた像が一人います。それが②ワカヒルメです。彼女について解説しましょう。
スサノオが高天原で大暴れして、馬を機屋へ投げ込んだとき、[神代上紀・本文]は、
「アマテラスが身体を損なった」
としています。これからアマテラスは驚き怒って、岩屋籠もりをしてしまう。ところがこの部分が[同・一書第一]では違っていて、
「ワカヒルメが傷つけられて死んだ」
としています。こちらで被害に遭っているのは、アマテラスに仕える織女=ワカヒルメです。さらに『古事記』はこう書き換える。
「織女が女陰を傷つけられ死んだ」
この神話には前にも触れたことがあり(→★【日本神話の北方要素】)、「男神=馬が女神を犯す」「女神が隠れて闇になる」というスキタイ型神話や、「弟神=月が姉神=太陽を犯す」というシベリア=エスキモー型神話など、複数の要素習合が見て取れます。
ともあれ[本文]と[一書第一]の対比からは、アマテラス-ワカヒルメのつよい親和性が明らかです。
そもそもアマテラスの別名が「オオヒルメ」なのだが、これは「大なる日の巫女」の意で、すると彼女は「神」でなく、その巫女だってことになる。上田正昭氏らが注目するよう、これはちょっとしたミステリーです。
しかし、僕の考えじゃ、これは不思議でも何でもない。なぜならオオヒルメとワカヒルメの原像は、
●オオヒルメ(大・日巫女)-北九州女王ナツシ。『書紀』の神夏礒媛。
●ワカヒルメ(若・日巫女)-ナツシの後継者トヨ。『書紀』の神功。
-であるからです。この傍証は二つあります。
一つは、『書紀』はワカヒルメを後にもう一度だけ再登場させているが、それが神功東征の段であることです。このとき神功がワカヒルメを祀ったのが、生田神社の起源だという。
もう一つは、②ワカヒルメ=織女の「女陰を突かれて死」という異常な死にざまが、⑧倭迹迹日百襲媛とそっくりであることです。
これから「②ワカヒルメ-⑧倭迹迹日百襲媛-⑨神功」という関連が浮き彫りになるわけです。
◆トヨの生涯を復元する
分身像①~⑨をつなぎ合わせれば、トヨの生涯が復元できます。
大筋はすでに解説ずみなので、ここではまとめとして表8を掲げておきます。Ⅰ~Ⅶの全段にやはり重複が読み取れます。
また表8の全体を、⑨[神功紀]と対比すれば、『書紀』の制作者たちが何を隠したかったかが、わかるでしょう。
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