黒マリアとテンプル騎士団-聖者の偶像⑤
いよいよ「聖者の偶像」論も終回です。今回は、田中仁彦『黒マリアの謎』(岩波書店)という面白い本があるので、これをネタに一席ぶちます。
〈黒マリア〉とは、主にフランス中・南部の山中で祀られている、特異な型の聖母子像です。50-80㎝の小座像で、たいてい肌が黒塗りされているのが特徴です。いかにも木訥な雰囲気をたたえており、十世紀以前の土俗信仰を遺したものと考えられます。
〈黒マリア〉の大きな謎は、こうした像の出現・伝播が、正統なキリスト教美術史の流れによっては説明できない-ということです。
ここですごく大ざっぱに教会美術史を整理すると、
①古代の教会美術-平面の絵は認めるが、立体像は禁忌の時代。そこで「聖図=イコン」ばかり造られた。とくに東方「正教会」がよくこの伝統を残している。
②ロマネスク-11世紀・南仏から起こった様式。簡素で力強い「浮彫り」像が特徴。
③ゴシック-12世紀のフランス出現。おどろおどろしいほどに豊かな「立体像」が溢れる。熱烈な聖母崇拝も特徴。
④ルネサンス-14~16世紀。ギリシア=ローマ的な写実・均整の美意識の再発見。
さて黒マリアは、見た目は③ゴシック的だが、時代としては、まだ立体像がほとんどなかった②ロマネスクに先行してます。これはどういうことでしょう?
そのうえ実は中世には、教会は黒マリア信仰を目の仇にしていました。多くの黒マリアが教会から追い出されたり、焼き捨てられたりしたのです。
そうだとすると、黒マリアは、ほんとうにキリスト教の「聖母」マリアの像なのでしょうか?
こうした疑問の詳細は、田中氏の前掲書を見ていただくのが一番だが、ここで結論から言ってしまうと、黒マリアはキリスト教「外」のものです。それはケルトの土俗信仰に根ざしている。つまり異教の地母神なのです。
キリスト教の内側に「ヨーロッパの土俗信仰」が深く浸透していることは、前回④でも述べました。一見奇怪な黒マリアは、まさしくこの類の要素なのです。
そしてさらに重要なのは、中世フランスに突如「ロマネスク→ゴシック」様式が勃興したのも、実はこうした「異教要素」が教会の内側へ侵入した結果ではないか…と考えられることなのです。とりわけゴシックの怪奇趣味は、そうであるよう思われます。
黒マリアは、たいてい「聖母マリア」でなく、「我々の母=ノートル・ダム」と呼ばれました。実はこれも異教時代からの地母神の呼称なのです。「黒」は生命を産み出す大地の色、そして闇と死の色です。
異教要素との融合によって、ヨーロッパ=キリスト教が「第二の誕生」を果たした時、それがゴシック時代なのです。
ゴシックの12世紀、フランス各地にとつぜん「ノートル・ダム」の名を持つ大寺院が一斉に出現しました。これまた奇妙なことですが、これら大寺院建築のスポンサーが何者だったか、今に至るもわかっていません。膨大な資金が動いたはずなのに…です。
田中氏の前掲書では、これら「ノートル・ダム」寺院を造ったのは、かのテンプル騎士団ではないか…という説が紹介されています。
テンプル騎士団。これは「十字軍」のために設立され、戦争略奪、また交易や金融まで手を広げて富強を誇った、超国家的組織です。聖ベルナルドゥスのシトー修道会とも密接な関係を持っていました。
この騎士団は、ついにはフランス王権から邪魔にされて、異端集団だと告発され、抹殺されてしまいます。全ての記録も焼かれたといい、闇に葬られてしまったのです。なるほど彼らの財力ならば、あれほどの大寺院群を建てることもできたでしょう。というか、当時のフランスには、彼らテンプル騎士団のほか、そんな資金を持った者はなかったのです。
さて彼らテンプル騎士団が異端だといわれたのは、本当のことでしょうか? 多くの史家は、それはフランス王側のでっち上げ、冤罪だったと見ています。
ところが、驚くべき説があります。テンプル騎士団は実際に異端であり、その本性は「黒マリア崇拝教団」だった…というのです。
ヨーロッパ民衆の土俗=魔術精神は、それまで千年の長きに渡って教会に抑圧され、無意識の闇に潜っていました。その無意識の爆発が、十字軍の熱狂と、「聖なる魔術的組織」テンプル騎士団を生み出し、さらに彼ら騎士団が、無意識の「女神崇拝」と「怪奇趣味」を具象化したゴシック革命を造り出した…。全てがつながる説明ではありませんか。
ところで以上の現象は、二十世紀にやはり「民族の無意識」の爆発として起こった魔術的ナチズムと、なにやら相似っぽいですね…。
テンプル騎士団は抹殺されたが、その残存勢力は闇に潜って、ずっとこの現在まで、続いてきたといわれています。
たとえば悪名高い薔薇十字教団=ローゼンクロイツ。あるいは国連創設にも関与したといわれるGBU。そしてグレース・ケリーとダイアナの暗殺関与が疑われるホーリー・テンプル教団。さらにはあの『ゴルゴ13』が雑誌では描きながら、単行本には収録できなかったというイワクつきの、ユダヤ=キリスト教カルテル「P2」…。
ヨーロッパ=キリスト教の裏側にも、魔術崇拝の暗流が脈々と流れてきた…のかもしれません。
ああ。また薄暗い話になっちまったい。何でいつもこうなるかなー…。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


最近のコメント